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2017-05-18

3種類の手付金の役割

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不動産の売買契約を締結する際に必要となるのが「手付金」です。この手付金は、さまざまな面をもっています。

その性質を正しく理解し、実際の契約に向けて準備しておきましょう。

手付金にも役割がある

不動産の売買に際して、購入の意思を示すために支払う費用を「申込証拠金」、売買契約の成立を前提として支払う費用を「手付金」と呼びます。手付金は「内金」と呼ぶこともあります。

手付金は、物件の引き渡し前に購入代金に充当されるため、前払金の性質をもっています。手付金として支払う金額は、物件の売買価格の10%から20%が相場です。

宅地建物取引業法では、宅地建物取引業者である不動産会社が売り主として手付金を受け取る場合、手数料の上限額は物件の売買価格の20%と定められています。

申込証拠金が購入の意思を示すという役割をもっているように、手付金にも支払う目的があり、手付金が果たす役割があります。それが、「証約手付」「解約手付」「違約手付」の3種類です。具体的には、どのような役割を担っているのでしょうか。

証約手付

不動産の売買契約が成立したことを証明するために授受される手付金を「証約手付」と呼びます。

不動産の売買契約に際してはさまざまな交渉を経ることが多く、その過程ではさまざまな約束ごとが上がっているでしょう。そのなかで、どの段階で契約が成立したのか、口頭の約束だけではあとであやふやになったり、“言った言わない”になる懸念もあります。

そこで、契約の成立を明確にするために交わされるのが、証約手付としての手付金というわけです。

売買契約書において、証約手付としての役割は「買い主は、本契約の締結と同時に、手付金として金○円也を売り主の指定する次の金融機関口座に振り込む方法により支払う」「前項の手付金は証約手付とし、利息を付さない」といったように記載されます。

解約手付

申込証拠金を支払うだけでは、不動産の売買契約は成立していません。商談を経て「やっぱり買いたくない」と思ったら、その段階でキャンセルすることができます。

売買契約が成立しなければ、申込証拠金は戻ってくるのが一般的です。

しかし、手付金の支払いは、売買契約の成立を意味します。そうなれば、契約は簡単にはキャンセルできません。契約という行為は、それだけ重い意味をもつものなのです。

それでも買い主が解約したいと思ったら、すでに支払った手付金を放棄して返還を求めない――そうすることで、売買契約を解除することができます。反対に、売り主がキャンセルしたいと思ったら、すでに受け取っている手付金の2倍の額を買い主に返す必要があります。

そのように、手付金の授受によって契約の解約権を行使する権利をもつというのが、解約手付としての手付金です。売買契約における手付金は、特別の意思表示がない限りは、この解約手付の性質をもつものと推定されます。

売り主と買い主との間で、解約手付としての手付金の授受が行われた場合は、売買契約の成立後であっても一方の当事者だけ、売り主か買い主かどちらの意思だけで契約を解約することができるとされています。

手付金が解約手付であれば、買い主は手付金を放棄すること、売り主は手付金の2倍の額を返還することで、相手方の承諾を得ることなく解約することができます。損害賠償を行うこともありません。

解約手付による契約解除はリミットがある

解約手付としての役割をもつ手付金を支払っていても、いつでも契約解除ができるというわけではありません。この権利を行使して契約解除が可能となるのは、「相手方が『契約の履行』に着手するまで」です。

つまり、契約に定められた約束ごとを相手方がすでに実行している場合は、手付金の放棄による契約解除を行うことはできません。相手方が契約の履行にすでに着手している場合、そこからの契約解除は相手方に損害が発生することになります。

そのような契約解除が起こらないよう、民法で規定されているというわけです。

「『契約の履行』に着手」がどのようなことを指すかというのはケースバイケースですが、不動産の売買契約においては次のような行為が該当することが一般的です。

・売買する不動産物件を借りていた賃借人と売り主との賃貸借契約を、売り主が解消した
・売り主が、売買する不動産物件の抵当権を抹消した
・契約上の明け渡し期限を過ぎてから、買い主が物件の購入代金をいつでも支払える状態で、売り主に対して物件の明け渡しを求めた

しかし、この「契約の履行」というのは、数字のようにはっきり定まったものではなく、その判断は難しいことが少なくありません。そのため、契約解除をめぐってはトラブルが起こることも。

その回避策の1つとして、手付金の放棄による解除ができる期間を「契約日から○日以内」「○月○日まで」といたように契約上で定めるという方法もあります。

違約手付

契約を交わして一定の義務を負う人が、正当な理由がないのにその義務を果たさないことを「債務不履行」といいます。不動産の売買契約において、正当な事由がないにもかかわらず義務を果たさない場合には、損害賠償を請求することが可能です。

それとはとは別に、約束を違えた「罰」として没収することができる手付金を「違約手付」といいます。

買い主に債務不履行があった場合は、手付金の全額が違約金として没収されます。売り主に債務不履行があった場合は、手付金の倍額を買い主に対して支払わなければなりません。

たとえば、買い主が100万円の手付金を支払っていたとして、買い主側に債務不履行があった場合は、100万円全額を放棄することになります。他方、売り主側に債務不履行があった場合は、受け取っていた手付金の倍額である200万円を買い主に対して支払う必要があるでしょう。

なお、解約手付による契約の解除は債務不履行にはあたりません。そのため、債務不履行による損害賠償請求はできません。ただし、解約手付を取り交わしていても、相手方に債務不履行がある場合は、債務不履行を理由とする売買契約の解除や損害賠償請求は可能です。

おわりに

何事もなく売買契約を締結し、その後の引き渡しまで進めることがでれば、手付金は物件の購入代金に充当されて終わります。しかし、予期せぬ事態が起これば、その手付金がさまざまな効力を発揮することがあるのです。

売買契約の締結や手付金の支払いにあたっては、その手付金の性質をしっかり確かめておきましょう。